寄生虫名 Heteraxine heterocerca(ブリエラムシ)
分類学 扁形動物門、単生綱、多後吸盤目
宿主名 ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili
病名 ヘテラキシネ症
寄生部位
肉眼所見 外観上、特徴的な症状はない。剖検的には、最大で17 mm程度の虫体が鰓弁上に付着しているのが見える(写真1)。多数寄生の場合、吸血により鰓は褪色して貧血症状を示す。
寄生虫学 虫体は左右非対称で三角形のような形をしている。成虫の体長は5-17 mm。虫体の後端部にある左右2列の把握器で宿主の鰓薄板を掴んで寄生する。2列の把握器は、片方が24-32個で、もう一方は3-14個と数が少ない上に把握器自体も小さい。雌雄同体で、成虫は一端に長いフィラメントが付いた鶏卵型の虫卵を産む。1度に生み出された300-800個の虫卵は、このフィラメントによって互いに絡まり合い長い塊となるため(松里, 1967)、養殖生け簀の網地に引っかかりやすい。松里(1967)によると、虫卵が孵化するまでには、12.5℃では14.4日、18.5℃で9.7日、23.9℃で7.5日かかった。一方で、29.7℃および6.5℃で孵化率は0%であった。
病理学 大量寄生すると、吸血により鰓が貧血症状を呈する。慢性的な寄生により、摂餌が低下して痩せる場合もある。
人体に対する影響 人間には寄生しないので、食品衛生上の問題はない。
診断法 虫体の圧平標本を作製して、形態学的な観察を行う。ブリの鰓に寄生する単生類寄生虫は本種のみであるが、カンパチでは稚魚期にのみ本種とZeuxapta japonicaの寄生が見られる。その場合、両種の識別は把握器の列を観察することで行う。すなわち、Z. japonica2列の把握器は、45-47個と39-42個というようにH. heterocercaほど非対称性が強くない。
その他の情報 細長いフィラメントを持つ卵が生け簀の網地に絡まりやすいため、1960年代にブリの網生け簀養殖が始まった当初から問題となっている。駆虫法として濃塩水浴が知られているが、魚に対する影響が大きいため現在ではほとんど行われない。現実的な対策としては、定期的な網替えによる虫卵の駆除が有効と考えられる。
参考文献 松里寿彦 (1967): 養殖ハマチの外部寄生虫Axine (Heteraxine) heterocercaについて. 魚病研究, 2, 105-111.

写真提供:江草周三(1)、小川和夫(2)

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写真2.H. heterocercaの虫体

写真1.ブリの鰓弁上にみられるエラムシ